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プロダクションノート

世界中が新型コロナウイルスの打撃を受け、その長く冷たい北風に悩まされる中、監督の森岡龍は、暖かく穏やかな太陽を求めて結婚をした。
本作は、そんな監督自身の環境や心境の変化、そして感謝を、直に、面と向かって届けたいという想いから着想を得て企画された。
いわば、森岡なりの結婚報告なのだ。


企画立案から一週間、脚本執筆と同時進行でキャスティング・スタッフィング、脱稿からわずか二日でロケハンを敢行してクランクインという、まさに本編に映し出されるロードムービーさながらの慌ただしさ、良く言えばワクワクが止まらない行き当たりばったりの旅の中、制作は行われた。本作のスタッフ・キャストには、10年前の監督作「ニュータウンの青春」の面々に多く集まっていただいた。10年前は駆け出しだったメンバーも、それぞれの方法でしぶとく活動を続けており、直前の連絡にもかかわらず、二つ返事で引き受けていただき、技術的にも肉体的にも一回り大きくなった皆の姿は頼もしかった。


撮影は16mmフィルムを選択した。デジタルと違って現場でプレイバックが出来ない特性は、前進あるのみのロードムービーの特性にマッチし、現場に心地よい緊張感を与えた。また、準備期間の短さを逆手に取り、ロードムービーの偶然性を最大限拾っていく狙いで、基本的に順撮りで撮影を行った。
二日目の昼過ぎには予想外の記録的な大雪に見舞われ、一時は安全面を考慮して撮影中断も考えたが、ロケ地としてお貸しいただいた「S&company」さんのご協力と、少人数体制であることも味方して、なんとか撮りきることができた。
雪は降り積もると数日は景色も変わってしまうし、天候予備日を作る予算も無かったため、順撮りを選択していなかったらと思うと、あの極寒の撮影日以上に寒気がしてくる。しかし、撮影中は大変だったが、この大雪は映画に彩りを与えてくれた。
序盤の朝の日差しから徐々に雲がかかっていき、大雪となり、雪の残った快晴となる。
別日に撮影した夏の回想シーンも、これ以上ない夏空となった。「北風だったり、太陽だったり」というタイトルは、撮影段階ではまだ(仮)の扱いだったが、これらの天候がキャラクターの心情に寄り添い、編集作業に入った頃には(仮)は雪と共に消えていた。


森岡映画は、彼の実人生の中で起きた出来事、忘れたくない言葉、もう戻ることのできない時間を切り取って映画に落とし込んでいく性質がある。
そのため、私生活において、兎にも角にも「コミュニケーション」を大事にしている。
行き当たりばったりで、ときに突拍子もない言葉に驚かされることもあるが、そういった彼の性格が生活を回転させているように思う。
それらを脚本へ落とし込み、独自のユーモアとリズムで、時にヒヤヒヤするほどの素直さまでもがスクリーンに映し出される。
ただの寂しがりやの酒飲みとも言える。


森岡龍と肩を並べて語り合うことで、それが映画になる。
そんな時間にドキドキしたいから、切り取って残しておきたいから、突貫工事であろうと、低予算であろうと仲間が集まって形になったのだ。
本作の少人数体制はそんな「コミュニケーション」が行き届き、作品と密に寄り添うことができたように思う。久々の仲間と制作できたことも大きい。

森岡映画は一貫して「出会い」と「別れ」をテーマに描いてきた。
本作は「出会い」と「別れ」に次いで「再会」がある。
「再会」はスタッフ・キャストだけでなく、本作の物語の1つの軸にもなっている。

対面しなくては出てこない言葉がある。
肩を並べなければ思い出せなかったこともある。
良いことばかりじゃないけれど、ちょっとだけ、前に進む。
それらがギュッと詰まった35分が「北風だったり、太陽だったり」なのだ。

(監督補:磯龍介)